1995年 八代将軍吉宗

Amazon 『八代将軍吉宗 NHK大河ドラマ・ストーリー』
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この作品が、私と大河ドラマとの出会いであった。吉宗自身の様子だけでなく、当時の江戸や幕府の様子も詳しく描かれたように記憶している。大河ドラマというと、激しい合戦のシーンをイメージしがちだが、時は太平の江戸中期、当然合戦なんてなく、おっさんが顔を突き合わせて政治の話をしているシーンが中心で、話は難しいし絵面も地味だった。大河ドラマの入り口としてはかなり難しく、小学生にとってはつまらない作品だったとも言える。今思えばよく頑張って最後まで観たものだと思う。ただ好きな人にとっては、骨太で興味深い作品であっただろう。大人になった今こそ、見返したい作品である。

作中、吉宗が市井の人々の意見を聞きにいこうとして家臣に反対され、「暴れん坊将軍になり損ねた」というナレーションが確かあって、そこでこの主人公がかの「暴れん坊将軍」と同一人物であるということを知った。当時のNHKは今よりお固かった印象があるので、民放の番組名を出すなんて、かなり思い切ったことだったのではないだろうか。

年齢の異なる複数の俳優でリレーして主人公を演じる作品では、主演の俳優にバトンタッチする際にどのように演出するかが一つの見所である。顔や雰囲気が似ていれば良いのだが、そうはいかないことも多い。この作品では、子役を含めて4人が吉宗を演じており、2人目である少年期を、今をときめく歌舞伎俳優の尾上松也さんが演じていた。実は、今回こうしてまとめるために調べてみて初めて知ったのだが、正直あまり記憶にないのが本当に残念だ。そして、3人目から4人目の西田敏行さんへのバトンタッチは非常に印象的だった。爽やかな阪本浩之さん演じる若き吉宗は疱瘡を患い、顔を包帯でぐるぐる巻きにして死の淵を彷徨う。一命をとりとめ、回復して包帯をとったら、西田敏行さんになっていた、という演出。今思えば、かなり斬新な演出で、ジェームス三木氏をはじめ制作陣の挑戦に感服するが、当時10歳だった私にとってみれば、細身のカッコイイ青年が突然ふくよかなおっさんに変貌したことに、大変なショックを受けた。これほどのインパクトを残した作品を私は他に知らない。

インパクトといえば、吉宗の息子であり九代将軍である家重を演じた中村梅雀さんの怪演が衝撃的だった。何を喋っているかがギリギリ分かる滑舌で、特に感情が高ぶるシーンでは、よだれや涙で顔をぐちゃぐちゃにしていて、真に迫っていた。この人、本当にこういう人なのではないかと思わせられるリアルさがあり、そんな姿やひねくれた言動の裏に見せる優しさがなんとも言えず悲しい人だった。後の作品で中村梅雀さんが普通に話す人を演じているのを見て、逆に不自然に感じたほどであった。家重が将軍に就任してからだったか、自分は父におんぶをしてもらったことがない、弟たちがうらやましいと訴え、年老いた吉宗におんぶしてもらうシーンをよく覚えている。

ナビゲーター・近松門左衛門は江守徹さんが演じた。「さればでござる」という決め言葉をはじめとした狂言回しのような大げさな話し方がユニークで特徴的だった。近松は、基本的には自邸で、フリップを使ったりしながら難しい時代背景をわかりやすく説明してくれた。また時には街に飛び出したり、吉宗をはじめとする登場人物に絡んだりすることもあった。難しい内容のドラマだったにもかかわらず最後まで観ることができたのは、この演出のおかげかもしれない。近松門左衛門は吉宗在世中に死去するが、以降は幽霊として登場したのもおもしろかった。

その他、大物俳優が多く出演されている。例えば徳川綱吉は津川雅彦さんが演じている。綱吉というと、生類憐れみの令があまりにも有名で、民衆を苦しめた困った将軍というイメージが強いが、吉宗の「吉」は綱吉から授かった諱であり、この作品においては、吉宗の憧れである賢明な将軍として描かれていた。また、吉宗にとって生涯目の上のたんこぶである尾張藩主徳川宗春は中井貴一さんが、派手好きで皮肉っぽくてなんだか嫌なヤツを好演されていた。