兵庫県知事が「画面が汚い」などとクレームをつけて話題になった本作。確かに、登場人物の多くがよれよれの着物を着ていて、町も埃っぽく、決して美しいとは言えない絵面であった。だが、私としては実は高評価。平安時代は華やかに思われがちだが、一部の特権階級を除いては貧しい生活であったし、都でもはずれの方はかなり寂れていた。そういった当時の武士階級や庶民の暮らしをリアルに描いていたと思うし、だからこそ、貴族に仕える立場からのし上がっていく平清盛という人物に説得力があった。日曜夜8時ということを考えると、大河ドラマは家族で夕食を摂りながら観るような家庭も多いのではないかと思うが、確かにそのような視聴方法には向かなかっただろう。近年はホームドラマ的な大河ドラマが多い中で、そういった作品とは一線を画していたので、一般受けせず視聴率的に苦戦したのも納得。だが長年の大河ドラマファンとしては、こういうものを観たかったと思わせてくれる、骨太の意欲作であった。
平清盛は平安のゴッドファーザーと称されることもあるが、伊東四朗さん演じる白河院がこの作品における真のゴッドファーザーであると感じる。史実でも40年以上も院政を敷き、いわゆる「治天の君」として権勢を誇った人物であるが、この作品ではそれだけでなく、清盛の実父ということになっている。突拍子もないと感じるかもしれないが、実はまったく信憑性のない設定というわけでもない。白河院は女性関係に奔放で、仕える女官や女房を数多くお手つきにしたとされている。関係を持った女性を臣下に下げ与えるということも多かったらしい。そして、清盛の母は白河院の女房であったと言われている。清盛の父である平忠盛は白河院の御所を警護する北面武士であったので、白河院のお手つきの女房が下賜されたとしても不思議ではない。
朝廷の男女関係については他にも、鳥羽院の中宮である璋子(待賢門院)が、その祖父である白河院と関係を持ち崇徳帝を生む、その崇徳帝に入内するために後宮に入った得子(美福門院)が鳥羽院のお手つきとなり寵妃になる、といった具合に、観ていて混乱するぐらい乱れたものとして描かれている。このことによって、朝廷を意図的に退廃的に描き、貴族社会の終焉を表現していたように感じる。ちなみに、鳥羽院は三上博史さん、璋子は檀れいさん、崇徳帝は井浦新さん、得子は松雪泰子さんが演じている。
権謀術数うず巻く朝廷には、不気味な人物が何人も登場した。その筆頭が、山本耕史さん演じる藤原頼長である。貴族たちは皆、白粉にまろ眉毛という風貌であるが、頼長は特に白くてお歯黒とのコントラストが目立ち、その話し方や笑い方といった人物造形と相まって不気味であった。頼長は「悪左府」とも称された苛烈な人物で、清盛をはじめ武士たちを蔑み平家を陥れようとする悪役だが、朝廷の乱れを糺そうとする潔癖なまでの正義感も描かれている。保元の乱で敗走し自害するが、その取り乱し具合も含めて、どこか憎めない人物であった。
また、阿部サダヲさん演じる信西もどこか不気味であった。中流貴族で学者であり、物語の序盤で登場して早くから清盛の才能を認めているので、視聴者としては清盛の味方と感じるが、物語が進むにつれ頭が良すぎて何を考えているのか分からない人物と感じるようになっていった。
またこの作品には、『毛利元就』で主人公の少年時代を印象的に演じた森田剛さんも、清盛の後妻・時子の弟である平時忠役で出演している。時忠といえば、有名な「平家にあらずんば人にあらず」を言い放った人物である。その発言から、実際の時忠の人柄も推し量れようというものだが、そんな人物を嫌な感じで演じていた。現役アイドルであるということを忘れさせられる、嫌なやつっぷりであった。
リンク
Wikipedia 平清盛 (NHK大河ドラマ)
キャスト、スタッフや概要はこちら。
松岡正剛の千夜千冊 梁塵秘抄
https://1000ya.isis.ne.jp/1154.html
この作品のオープニングや挿入歌として印象的に歌われる「遊びをせんとや 生まれけむ・・・」という歌がある。これは作中で松田翔太さんが演じた後白河法皇が今様をまとめた『梁塵秘抄』の中の一節である。『梁塵秘抄』を解説しつつ、後白河法皇と今様についても興味深く考察した記事を見つけたのでご紹介。
平家礼賛
http://www6.plala.or.jp/HEIKE-RAISAN/siden-contents.html
清盛をはじめとする平家一門についてまとめたサイト。少々古いサイトだが、コンテンツが豊富で大変興味深くまとめられている。筆者の清盛愛が伝わってくるようだ。