1998年 徳川慶喜

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将軍と市井の人々との交流というと、ドラマ『暴れん坊将軍』での、徳川吉宗と町火消のめ組との交流が真っ先に思い浮かぶ方もいるかもしれない。しかし、実際には吉宗は市井の人々と交流はなかった。『暴れん坊将軍』で北島三郎さんが演じため組の組頭、辰五郎のモデルになったという説があるのが、幕末の町火消、新門辰五郎である。娘の芳は徳川慶喜の妾となっており、慶喜が上洛した際には辰五郎が二条城の警備をおこなうなど関わりがあったらしい。そういう訳で1998年の大河『徳川慶喜』では、新門辰五郎の妻・れんを演じた大原麗子さんが語りも担当しており、役のままの砕けた江戸っ子言葉での語りが他の大河ドラマと一線を画していた。

幕末という、ただでさえ登場人物が多く複雑な時代であるのに、前述のように町方との交流があったり、架空の人物まで登場したりと、情報量が多く、難しい作品であった。藤木直人さんが演じた慶喜の側近・村田新三郎は、とある旗本を殺し、妻をおいて恋人と駆け落ちするのだが、新三郎に関わる人物はほとんどが架空で、物語の本筋ともあまり関係がない話だったので、少々混乱した。ただ、藤木直人さんは当時無名に近く、出演シーンの多いこの配役は大抜擢だったようだ。

徳川慶喜というと、鳥羽・伏見の戦いの最中に大坂城を脱出し江戸へ退去したことで、新政府軍からも旧幕府軍からも非難され、臆病者のイメージがあるかもしれない。特に旧幕府軍の立場から見ると、味方を裏切って江戸に逃げ帰ったと思われてもしかたがないと思う。ただ、その背景には尊王思想の強い水戸出身であったという事情があり、「朝敵」となることは慶喜にとって、私たちの想像以上に恐ろしいことだったのかもしれない。そんななかでも本木雅弘さん演じる徳川慶喜は、終始あまり表情を変えず、怜悧な印象であった。

本作は江戸城の無血開城で終了しており、静岡での余生については触れられていない。趣味に没頭する生活であったようなのでドラマにするのは難しいのかもしれないが、興味深いし、大正2年まで長生きし貴族院議員にも就いたということはあまり知られていないと思うので、そこまで描いてほしかったという気持ちもある。